実績ストーリー

創業大正13年! 老舗菓子店の新たな挑戦

株式会社白根屋/Patisserie ROOTS

取材日:2018年5月24日

燕市秋葉町に店を構える「白根屋」は、大正13年創業の老舗菓子店です。初代が旧白根市出身だったため、燕市の商店街にありながらも「白根屋」。初代は相当頑固な職人さんだったのかな、などと思わず妄想してしまいます。

実はこの白根屋さんと協栄信用組合の関係は、もう60年以上も続いています。協栄信組の取引先のなかでも、1、2を競う長いお付き合いです。

「毎週金曜日には必ずお店まで売上金の集金にお邪魔して、いろいろお話をさせていただきました。昔はどのお店にも毎週、ことによると毎日、足を運ぶのが我々営業マンにとって当たり前だったんです。お店に現金を置いておくのも不安だったからでしょう。今ではそういうことも少なくなりましたが、白根屋さんとの間では、まだそういう昔ながらのお付き合いが続いていました」
とは、つい最近まで白根屋を担当していた小林良平係長。

今回の主役である更科賢祐さんは、そんな白根屋の長男として生まれました。

「小さい頃から、卒業文集に『将来、お菓子屋さんになる』と書いていました。けれどそれは家業がお菓子屋だったからだけで、いざ高校卒業が近くなり、進路を決めるという時に、自分は本当にお菓子をやりたいのか悩んでしまって。父と母に相談したら、とりあえずお菓子をやるにしてもやらないにしても、一度東京に出てみたほうがいい、と」。

やりたいことがはっきりするまで、とりあえずでもいいから東京の大学に通いなさい。東京でしか経験できないこともたくさんあるから。両親のそんな声に励まされて、賢祐さんの大学生活がスタートしました。

「私には姉が二人いて、そのうちの一人が東京でお菓子の仕事を始めていたんです。姉も私も食べるのが大好きで、しょっちゅう連れられいろいろなお菓子屋さんを食べ歩くうち、自分でもやってみたいという気持ちがふつふつと湧き上がってきました。大学3年の頃です」。

老舗と洋菓子の葛藤を超えて

受け継がれてきた菓子職人の魂がそうさせたのでしょうか。賢祐さんは気に入った洋菓子店に「アルバイトでも研修生でもいいから」と、飛び込みで修行を申し出ました。賢祐さんの熱意に押されたのか、人手が足りていたそのお店は「代わりに」と横浜の知り合いの洋菓子店を紹介してくれました。大学3、4年の2年間は洋菓子の勉強に明け暮れます。

「あくまで研修の身ですから、お給料はほとんど出ません。だから居酒屋でバイトをして生活費を稼いでいました」。

都合2つの店で洋菓子を勉強し、賢祐さんが「白根屋」に戻ってきたのは26歳の頃。白根屋にはこれまでの和菓子に加え、賢祐さんの洋菓子も並ぶようになりました。

「帰ってきてすぐの頃は、東京で勉強してきたカッコイイ洋菓子を出したくて。けれどうちは昔からのお客さんが多く、年齢層も比較的高め。私のカッコイイお菓子はなかなか受け入れられませんでした。売れるものと作りたいもののギャップに、戸惑いも感じましたね」。

地元産の食材を使った手作りのジャムなど、白根屋の客層にも受け入れやすい商品も徐々に生み出しました。そして10年近く両親と店を切り盛りするうち、2号店を出す機運が高まってきました。

「実は私が中学生の頃に、すでに両親が新店舗用の土地を押さえていたんです。どうせ将来、賢祐が店を出すだろうからって。だから早くやれと、親からはずっと言われていたんです(笑)」。

手回しの良いご両親が買っていた土地は燕市の隣町・三条市にあり、JR燕三条駅やイオン県央店のすぐそば。近くに県央基幹病院の建設も決まって、思いがけない好立地に化けていました。

職人であり、経営者であり。

協栄信組の小林係長とも、具体的な出店の相談をするようになりました。

「白根屋さんは信用度も高くお取引も長いので、話自体はスムースです。けれど賢祐さんが新しい店をオープンするということは、新しく起業されるのと同じこと。専門家からいろいろな意見を聞いたり、市場調査を行ったりして、あらためて計画を立てなければいけません。その売上見込に応じて、無理のない資金規模に収める必要があります」。

経営者としての手腕が問われる賢祐さん。そしてここでもまた、理想と現実のギャップに出くわします。

「お菓子屋さんは他の飲食業に比べても厨房機器にお金が掛かります。例えばオーブン。一流店で使われているトップメーカーのものは中古でも300万円します。けれど別のメーカーのものなら新品で180万円程度。職人としては300万円のものを使いたい。けれど180万円のもので出来ないかというと、試してみたら意外とそんなこともない。焼き時間や温度を調整すれば、同じクオリティのお菓子を作ることはできました」。

理想と現実のギャップを、賢祐さんは技術で解決します。

そして2017年冬、待望のお店がオープンしました。その名も「ROOTS」(ルーツ)。白根屋の「根」を英語にし、祖父や父がこれまで燕市で伸ばしてきた「根」を、ここ三条市でも伸ばしていきたいという思いが込められています。店舗のデザインには奥様のアイディアもふんだんに取り入れられ、女性好みの可愛らしい洋菓子店になりました。若い女性のお客も増え、「東京で勉強してきたカッコイイ洋菓子」もここではむしろ喜ばれます。

「けれど、お菓子業界にとって秋冬シーズンは売上が伸びて当たり前。客足が落ちる春から夏にどうやってお客様を取り込むかが勝負です。いろいろアイディアを試してみて、経営を軌道にのせたい」。

ご両親や奥さん、そして協栄信組と密に連携をとりながら、賢祐さんのチャレンジは続きます。

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