「すいません、ラーメン屋をやりたいんですが」

Tsubame Ramen YUKI
「すいません、ラーメン屋をやりたいんですが」

新潟と言えば、今も昔も外食の花形はやっぱりラーメン。地域ごとにご当地ラーメンが根付き、県内のみならず全国からのラーメンファンを呼び寄せています。毎月のように新しい店がオープンし、行列を作ります。けれどもちろん、そんなケースばかりではないのも確かです。そんな競争の激しいラーメン界に、2019年9月29日、満を持して独立開業で挑んだ男がいます。金子勇輝(ゆうき)35歳。長らく県内の有名ラーメングループで働き、店長までのし上がった経歴を持っています。店を開く場所は、自分が生まれ育った町、燕市です。

「ちょうど今年の春が店に勤めて10年の節目だったんです。年齢ももう35歳。夢だった自分の店を持つには、ちょうどいいタイミングじゃないかと思ったんです」。しかしラーメンの腕はあっても、店を立ち上げた経験はありません。資金もなければノウハウもない状態。そんな頃、一足さきに独立していた友人の美容師から協栄信用組合を紹介されました。同じような状態から見事開業を果たしたその彼にならい、自宅近くの「きょうえい」中央通支店の門を叩きます。そしていきなり窓口で一言。

「すいません、ラーメン屋をやりたいんですが」。

店頭に「独立開業、応援します」というポスターが貼ってあるとはいえ、かなりストレートな問い合わせ。居合わせた堀江義明支店長が話を聞くことになりました。「まず向かい合って座って、真っ直ぐな彼の目を見たんです。この人はやるな、という直感は働きましたね。これまでの経歴をお聞きして、確かな腕をお持ちだということもわかりました。これならちゃんと利益を上げられるだけのお店を作ってくれる。そんな確信を抱きました」(堀江)。

願いは地域の人のため

店舗を一から立ち上げるのは、もちろん簡単ではありません。土地探し、あるいは空き店舗探しに始まり、リフォームや厨房機器の導入など、やることは山ほどあります。「その辺は協栄さんの協力を全面的に頂いて。本当にわからないことばかりだったので」(金子)。「金子さんの願いは地域の人のために、地域に愛されるラーメンを作りたいということ。それは当組合のスタンスとも一致するものです。何とか地元・燕を盛り上げていこうという心意気にお応えしたかった。全力でサポートさせていただきました」(堀江)。

最初に候補に上がった土地は、申し分のない立地と広さ。けれどとにかく賃料が高い。「これにプラスして建物を建てると、大変な借金を金子さんに背負わせてしまうことになる」(堀江)。そこで思いついたのが、町外れの元スナックだった小さな建物。隣りは工場で、駐車場も10数台とれます。「金子さんが描いていたビジョンよりはちょっと小さいかもしれないな、というのはありましたが、こちらの家主さんも協栄のお客様。そんなこともあって、条件が合い、借りる事となりました」(堀江)。

既存の建物を活かしながら、内装は全て手を入れました。カウンターに小上がり、ラーメンを作るのに最低限の厨房。木の風合いを活かしたおしゃれな店が出来上がりました。「リフォームに関しても想定よりも随分安く上げていただくことができました。本音では金子さんはもっと大きな店で始めたかったと思います。けれど創業して最初のお店です。あまり大きくしてもスタッフの人数も含め、手が回らなくなるかもしれません。そういう意味では、スタートとしてはちょうど良い大きさだったと思います」(堀江)。

気持ちが伝わる一杯を作る

「Tsubame Ramen YUKI」の看板がかかったこじんまりした白い建物。それが金子さんのお店になりました。一般的には「燕三条ラーメン」と総称されるところを、あえて「Tsubame」としたあたりに、金子さんの地元に対するこだわりを感じます。試行錯誤を繰り返して作り出した「中華そば」(750円)は、豚骨スープと魚介スープを合わせるダブルスープ。オーダーが入ってから2つのスープを鍋に合わせて熱を加えます。手間は掛かりますが、こうすることでいつも変わらない美味しいスープが提供できるのだそうです。普通はザルで「ちゃっちゃ」と振りかける背脂も、あらかじめ細かくしておいたものを盛りつけるスタイルに。「振り掛けると、丼に脂が散って美しくないじゃないですか。きれいなラーメンにしたかったんです」(金子)。こだわりは尽きません。

さらに、もう一つ柱に据えたの「CURRYらーめん」(850円)。スープに醤油、調味料、カレー粉を加えて作るオリジナリティが光る一杯です。こちらは金子さんがもともと賄いとして食べていたものといいますから、美味しさも確かです。

「売り上げとしては想定外ですね。すごく順調に伸びていると思います」(堀江)。ランチタイムには行列もできる繁盛ぶりです。営業担当として定期的に足を運ぶ中央通支店・桑島聖人さんも、「昨日はオフだったのですが、友達と一緒に食べに来ました。大好きな味です」と目を細めます。しかし金子さんは満足していません。「自分が思っていたより全然売れていない。土日はいいんですが、平日がまだまだ。やはり甘い世界じゃない」と気を引き締めます。

「コンセプトではなくて、気持ちが伝わるラーメンにしたいんです。僕の気持ちにシンクロしてもらえれば、絶対にリピーターになってくれるはず。そこは自信あります」。競争が激しい新潟ラーメン界に、新しい風が吹き込みます。

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